
1.日本経済の現状と課題
(1) 短期的な課題は需要不足
日本のGDP成長率は、2008年の世界金融危機以降、自公政権下で決定された緊急経済対策の効果や世界的な景気持直しでプラスになった時期(概ね09年4月〜10年3月)を除き、マイナスが続いており、直近の11年4‐6月期は実質▲0.5%、名目▲1.5%となっています。この間、実質値が名目値を上回るデフレ状態がつづいています。
この景気後退の主因は、世界的な景気停滞による輸出の減少と国内の設備投資減少などの需要不足にあると考えます。3月の東日本大震災による打撃と世界的な景気の落込みに加えて異常な円高がつづき、先行きの見通しも一段と厳しくなっています。
(2) 中長期的な課題はデフレ
日本経済は長期停滞がつづいています。92年のGDPが481兆円でしたが、18年後の11年は479兆円とゼロ成長です。細かく見ると、03年-07年の間は、金融機関の不良債権処理などバブルの”負の遺産”の清算がかなり進んだことや世界的な好況に支えられてプラス成長を達成したものの、その後08年の「リーマン・ショック」の影響で再び厳しい状況がつづいています。
GDPの名目値と実質値を比較するとこの20年間で物価が16%下落する長期的なデフレとなっています。長期停滞の大きな原因の一つがデフレであると言えます。
(3) 税収減と社会保障支出増により財政が悪化
11年度末の国の長期債務残高は692兆円とGDPの138%に達しています。94年度末に200兆円を超えてから増加をつづけ、04‐07年度に改善の兆しはあったものの、その後再び増加に転じてきました。財政悪化の主な要因は、①歳出面では00年ごろまでは景気刺激対策として追加した公共投資であり、それ以降は社会保障関係支出の増加によるもので、②歳入面では、景気の停滞にともなう税収の落込みです。
2011年度予算の社会保障関係は28.7兆円で、地方交付税交付金を除く一般歳出経費の53%を占めています。この十年間、社会保障関係費は平均して毎年約1.1兆円増加しており、昨年度からは1.4兆円増額しています。
財政悪化は、国債発行の増加により金利上昇につながります。また、政策経費を圧迫して、成長に必要な支出も十分にできなくなります。したがって、これ以上財政の悪化を放置しておくと経済成長の足枷となります。
2.経済再生のために必要な政策
(1) 短期的には底割れ防止が最優先
経済が底割れを起こすと、技術や人材の継続性が損なわれ、経済の再生がきわめて困難になりかねません。したがって、景気・雇用の底割れ防止に全力を上げる必要があります。2013年度までに名目成長率3.5%、実質成長率2.5%の達成をめざします。
(ア) インフレ期待が形成されるまで一層の金融緩和を実施
デフレを脱却するためには一層の金融緩和が必要です。デフレにはさまざま要因が指摘されていますが、最大の要因は「貨幣的」現象だと考えます。金融緩和が継続され、インフレになるとの市場に期待を形成することが重要です。インフレ期待が高まれば、必然的に為替水準も調整され、異常な円高は是正されます。 確かに日銀は、これまでに「ゼロ金利」や「量的緩和」政策を実行しており、これ以上の政策手段は限られてはいます。しかし、この際は非常事態だとの認識を持って、「非伝統的」な政策にまで踏み込んで、あらゆる手段を試行するべきだと考えます。
具体的には、
① 1.0%超の物価変動目標(インフレ・ターゲット、CPIでは1.5%〜2%に相当)に設定し、目標達成まで緩和政策を継続することを決定する
② 市場買いオペを一層拡大し、現行のいわゆる「日銀券ルール」を見直す(日銀が長期国債保有額を日銀券発行額の限度内に収める)
③ 日銀による金融機関からの社債等の買取枠の一層の拡大と対象証券の拡大
(イ) 積極的・効果的な財政出動
これまでの経験から金融緩和だけでは、実際に資金需要が十分に発生しないと考えられます。したがって、積極的な財政出動によって需要を創出していく必要があります。その際には、財政の制約があることを考慮して、効果発言が早く、将来の需要創出につながる効果的な分野に集中して投資することが肝要です。 具体的には、
① 2011年度第2次補正予算に計上されている震災復旧・復興費の早急に執行する。
② 同第3次補正予算は、15兆円規模として、震災復旧・復興のほか、全国の防災対策事業、都市部の老朽化インフラの点検・更新、ハブ空港・港湾の整備などを盛り込む。年内に執行が可能なように、11月上旬までの成立をめざす。
③ 企業の研究開発投資、設備投資を促すために、2011年度から3か年程度の期間、法人税に対する研究開発費の損金算入の拡大、即時償却の対象拡大などの税制支援策を実施します。また、被災地関連企業については、さらに法人税の軽減策を導入します。
④ 2012年度及び2013年度予算は、政策経費として2011年度当初予算並みの70兆円は確保する。ただし、子ども手当や農家戸別所得保障のような恒常的な支出については極力増額せず、復興関連や産業の生産性向上に資する費用に重点化することにします。また、2014年度以降は財政の健全化のために歳出の削減に取組むことにします。
なお、財源には既定経費の削減、特別会計の剰余金・積立金(いわゆる「埋蔵金」)の流用、特殊会社(JT、郵政など)の政府保有株式の売却などを充てるほか、不足する分については「復興債」を発行することにします。株式売却については、市況に十分配慮しながら計画的に行い、原則としてすべて売却します。償還のための増税は、デフレ状態にあることから、経済が安定した状態(例えば、2四半期連続で名目成長率が3%を上回るなど)になるまでは行わないことにします。具体的な償還財源に財政健全化の総合的な検討の中で2011年末までに決定して、2014年度以降を目途に実施することにします。
(ウ) 政策金融の機能強化
資金需要に迅速かつ十分な資金の提供を促すために、㈱政策投資銀行、政策金融公庫の制度融資の枠を大幅に拡充することとし、第3次補正予算で20〜30兆円の融資枠を計上します。また、被災関連企業や中小企業に対しては、返済据置期間の延長や利子補給等を行い、借入れを円滑にします。
(2) 中長期的には財政健全化が必要
現在、国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)はGDP比で▲6.3%ですが、2015年度から縮小させ、2022年度ころには黒字化を達成します。
(ア) 徹底的な歳出面削減が最優先
先ずは、あらゆる事務事業を洗い出し、政策の優先度を再評価することです。その上で、社会保障関係費を除く政策経費は総額で2011年度予算の水準とし、物価上昇分の増額だけにします。教育費等の必要な予算の増額については、原則としてそれと同額の削減を行います。
また、人件費については、定員削減をさらに徹底して2020年度までに10%削減する。
(イ) 社会保障の給付と負担の長期的な計画策定が必要
今後、歳出が確実に伸びるのは社会保障関係費です。したがって、将来めざすべき社会保障給付のあり方とそれに要する費用について、十分な議論を尽くして国民的なコンセンサスを構築することが重要です。菅内閣の「社会保障と税に関する検討」は、議論が中途半端に終わっていますが、早急に方向性を出す必要があります。
(ウ) 消費税10%に引上げ、全額を社会保障予算に
消費税を2015年度から10%に引上げます。引上げる5%のうち、1%分は地方の財源とし、引上げ分からは地方交付税交付金には算入しないことにします。それによって、約9.6兆円(現行分7兆円と合わせれば総額で約16.6兆円)の財源が確保できます。これを全額社会保障関係費に充当することとし、社会保障関係予算を35〜38兆円(現在は29兆円)規模と設定します。この歳入の範囲に収まるように社会保障制度の制度設計を行います。
(エ) 所得税・社会保険料で所得再分配効果を拡大
所得税は、負担割合を現行水準とします。最高税率の引上げ等の高所得者の税負担を引上げる一方、低所得者の負担を軽減し、所得の再分配機能を強化します。また、社会保険料については現行の負担水準を維持した上で、所得再分配を強化するように改正します。
(3) 長期的に成長力のある経済システムへの改革
日本の潜在成長力を高めていくためには、内外の環境変化に適応した経済システムへの改革が必要です。
(ア) 成長産業を伸ばすビジネス環境の整備
国内の雇用の安定・拡大と賃金水準の維持・上昇のためには、先端技術産業、ソフト・ハードを融合させたシステム型産業などの付加価値の高い産業の立地と発展が必要です。そのためには、研究開発や設備投資を各種制度面から支援していくべきです。
アジアをはじめとする新興国を中心に、サービス業など日本の内需型産業のノウハウへの需要は今後高まるものと期待できます。また、金融・法律・会計・知的財産 管理・経営コンサルティングなどの専門サービスに対する需要も高まる可能性を持っています。日本のゲームやアニメは海外で高い評価を受けていますが、こうしたいわゆる「コンテンツ産業」のポテンシャルは大きいと考えます。こうした成長分野を伸ばすことができるように、税制上の支援策の拡充、各種規制の見直し、政策金融に努めていきます。
ただし、政府が成長分野を指定して、政府が定める要件に基づいて助成を行うような官庁主導のいわゆるターゲット型の成長戦略では最早多くの成果は期待できないと考えます。発想を転換して、政府はあくまで民間から新しいアイデアが生まれ、創意工夫が発揮されるようなビジネス環境の整備に専念するべきです。
(イ) 対内直接投資の拡大
先進国や新興国からの豊富な資金・優秀な人材・すぐれたビジネスモデルを導入して、国内産業の活性化と雇用創出を行っていく必要があります。先進諸国に比べて著しく少ない国内への直接投資を促進するための制度改革に努めていきます。
(ウ) 農業の競争力強化
日本の農林水産業は深刻な課題に直面する一方、発展のポテンシャルを持っています。穀物や畜産などの土地利用型農業については、経営資源が主業農家に集積するように誘導していきます。また、野菜・果実などの集約型農業については、品質の維持・向上や生産コストの低減を推進し、国際競争力の強化に努めます。従来の消費熱量ベースでの食料自給率向上をめざす政策を転換して、主業農家の経営が事業体として自立できるような経営をめざします。一方、大都市近郊農業や中山間地農業については、それぞれの立地の特性や多面的な機能に着目した支援策を実施します。
(エ) 人材育成に教育の充実
将来の日本経済の成長は、それを支える創造力・構想力・技術力を持った人材がいなければ達成できません。大学等の高等教育の質の向上、時代のニーズに合った内容への見直しを進めます。また、教育を受ける機会平等を実現するため、奨学金制度の更なる充実、国公立大学・高等学校の教育費の低減などをめざします。さらに、世界に開かれた日本の教育をめざして、海外からの研究者や留学生の受入れを拡大します。







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